がんばろう!岩手のスポーツ

岩手スポーツ応援団長を勝手に名乗る平藤淳の個人的なブログです

閉店セールにて/もったいないけど、もったいなくない

駅までの帰り道にある文房具屋さんに、閉店の知らせが出ていました。
67年続いているお店のようです。
昭和30年(1955年)とありますので、私より1年先輩。
何回か寄ったことがありますが、
おじさんとおばさんの二人でやっているお店で、
広めの建物もそう古くなく、品ぞろえが豊富、そしてPOPが上手だという印象がありました。

そして、なんと、
在庫一掃まで「全品50%OFF」の閉店セールが行われています。

今使っているリングファイルが、べろべろになってきていたので、
この際、新しいものを、そしてついでに半額で何かを…と、立ち寄りました。

混んでいます。
レジに列ができています。
高校生が、私が一生かかっても使い切れないであろうほど大量のペンとノートを両腕で抱えて並んでいます。

リングファイルを手にとって、さらに…と物色し始めた時、おばさんの元気のいい声が耳に入ってきました。
その声で、前に来た時のことを思い出したのです。

***
2019年の12月です。
お葬式がありました。
弔辞奉呈のために、奉書紙を探していたのです。

あるかなあ…と、
この文房具店に寄ってみると、数種類の奉書紙がありました。
ふさわしいものを選び、薄墨の筆ペンもあわせて買うことにしたのです。
その二つをもってレジに行くと、
おばさんが、しみじみとおっしゃたのです。

「残念だったね。そして、ご苦労さま。」
***

ありがたいな…と思いました。
奉書紙と薄墨の筆ペンを求める背景を想像して、声をかけてくれたのです。

あの時のおばさんの気配りと、亡くなった方のことが、ありありと思い出され、
なんだか複雑な気持ちになってしまいました。
せっかくの50%オフなのに、買い物を続ける気持ちにならず、
ファイルひとつだけ買って出てきたのです。

すてきなお店が、一軒、なくなりました。

(もったいないな…)

と思ったのですが、
おじさん、おばさんは、これから次のステージに向かってゆくのでしょう。
心の中でエールを贈ることにします。

そして、
何かをやめて次のステージに向かう人へのエールを
「もったいなくない」という題名で、
岩手スポーツマガジン「スタンダード岩手」の私の連載コラム「がんばろう!岩手のスポーツ」に書いていたことを思い出しました。

長いけど、全文、載せます。
お時間があればどうぞ。

もったいなくない
この時期になると毎年のように、そして夏・冬のオリンピックが行われた今年は特に、スポーツ選手が競技生活から退くというニュースが流れます。いわゆる「引退」。体操の内村航平さん、陸上競技福島千里さんや福士加代子さん、卓球の水谷隼さん、ウエイトリフティング三宅宏実さん、プロ野球松坂大輔さん、そして、大相撲の白鵬関…ああ、あの姿はもう見られないのかと、寂しい気持ちになります。
県内でも、全国レベルで高い実績を持つ高校生や大学生などが、進学や就職を機に、あるいは他の事情で、競技から離れるという話を耳にします。
そのような人たちや、関係者にお会いした時に、私は、こう言っていました。

「もったいない」

これは(よく努力して高い実績を残してくださったし、さらに競技を続ければまだまだ高いレベルに行く力を持っているのに…)という前半を省略した、ほめ言葉として使っていたのです。よく耳にする言葉ですし、私も、とても便利に使っていました。
一月に行われたスケート・アイスホッケーの国民体育大会にも、この大会を最後に「引退」するという県選手がいました。オリンピックの最終予選まで残ったものの北京の出場権は獲得できなかったのですが、まだまだ、国体で上位入賞し続けられる力を持った選手です。よく知っている人でしたので、会場に応援にいって、やっぱり「これまでよくがんばったね。でも、もったいない」と声をかけて別れようとしていたのです。

最後のレースを見ながら、何かで見たどなたかの言葉が、ふと、思い出されたのです。

「伝統、伝統と言っているけれども、それは、どれくらいの範囲で何年続いている伝統なのか」

そして、気がついたのです。私が、これまで「もったいない」と言ってきたのは、スポーツの、その中でも順位を競うという特定の分野で、中学や高校・大学の10年程度の期間、つまり、狭い範囲の短い期間での価値観で発言していたことに。
これまで、簡単な気持ちで使ってきた言葉ですが、とても失礼なことを口にしていたような気がして、今回は「もったいない」とは言わずに別れました。
その後、人づてに、彼は競技をやめた後にやりたいことが明確になっているという話を聞いて、「もったいない」をなぜ失礼だと感じたのかが腑に落ちたのです。

高いレベルでの目標達成をする力をスポーツで身につけた人が、この先、その力を元に、新しい分野で活躍しようとすることが、もったいないはずがないのです。
国のスポーツ基本計画は、スポーツにかかわることで「人生」や「社会」を変え、「世界」とつながり「未来」をつくることを目標としています。スポーツを通して身に着けた力を他分野で生かそう、また、さらに力をつけて未来をつくろうと考えている人に対して、「もったいない」はないでしょう。
スポーツを究めるために、あるいは、見つけ出したスポーツでの課題をクリアするために、これからもまだ続けるもよし、これまでのスポーツ経験を生かして新たな道に進むのもよし、どちらも尊重されるべき選択です。安心して進んでください。
とはいうものの、本当はちょっと寂しいので、これからはこう言うことにします。

「もったいない…けど、もったいなくない。でも、スポーツも忘れないでね!」

あ、
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Standard岩手(スタンダード岩手) Vol.82 3-4月号 (2022-02-25)  Kindle版